住む場所・環境に愛着を持ち、自然と共に暮らす新しい考え方

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「流域思考」による木の家づくり

木曽川流域 木と水の循環システム協議会
青木 良篤

これから家を建て、家族が住む場所を決めようとしているみなさん、その土地はどんな場所ですか? 私たちは普段は水の恵み、山、森、川、海の恵みなどの自然の恵みを当たり前のごとく享受しています。食糧は言うまでもなく、春夏秋冬における自然の情緒や美しさなど、人は生物多様性のもたらす様々な恩恵を享受することにより生存しています。
これから自分と家族が生きていく場所が、その土地の自然や環境の恩恵・脅威など様々なものから影響を受けていること、またこれから受けるであろうということを知っていることはとても大切です。

木曽川流域図
※クリックして拡大できます

この地図を見てください。
木曽川流域図という川を強調した地図です。行政による地域区分ではなく、川を中心とした、自然の恩恵や脅威を受ける「流域」という視点を持った地図です。太い青線と緑線で囲まれたエリアが木曽川(飛騨川:木曽川の第一の支流)の集水域を表しています。橙色の太線で囲まれたエリアはこの木曽川の水の恵みの恩恵を受けているエリアとなります。これを見ると濃尾平野全体が水道用水、工業用水、農業用水などで多大な恩恵を受けていることが一目でわかります。中京地域は工業・農業ともに盛んですが、木曽川水系や愛知用水等がこの地域の生活・経済を支える大動脈であることが分かります。家の蛇口をひねれば水が出てきますが、その水のふるさとは木曽川の上流部の森林地帯なのです。それが何を意味するかというと、この上流の森林地帯が荒れれば、水の供給はもとより森林の持つ多面的な機能が損なわれてしまう、ということです(図参照)。上流で豪雨が起きればこの流域で災害が発生する可能性が高まります。最近の豪雨災害も流域で起きていますね。川の受益者である流域住民が自然の恵みや災害を他人事ではなく「流域は一つ、運命共同体」という意識を持って上流の森林の状況を知り、未来の子供の為に豊かな森づくりにつながるアクションを皆で考え実行していくことはとても意味のあることなのです。

では、私たちが日本の森を守るために出来ることとは何でしょう。上流部は日本各地どこでもそうですが、高齢化、過疎化や限界集落化が進み経済的活動も急速に減退しています。森林を適切に管理・維持していくことが難しくなっています。森林や川の恵みを日常的に受けている中・下流域の都市生活者が、流域を「地元」と捉えて上流部を支えるにはどうしていけばよいでしょうか?

ここで一つ確認しておきたいことがあります。日本の面積の67%は森林で森林率は世界第三位、資源がない日本で森林資源だけは有り余るほどあることを知っていますか?世界中の森は過剰利用によって減少を続けていますが、日本は木の文化の国でありながら外国産木材が大勢を占めており国産の木材の自給率は28%程です。一方、日本の森は戦後植林された森林が伐採期を迎えるなど森林資源が潤沢にあるにも関わらず「過少利用」のために逆に劣化しつつあります。日本の森林資源は豊富にあるのにほとんど使われずに放置され、荒れ放題となって孤独死寸前のような状態になっているのです。森林の劣化はただ単に木材としての経済的価値がなくなるだけでは済まされません。森林の持つ多面的機能(図参照)が劣化することにつながり、土砂災害等の可能性が高まったり、鹿や猪などの獣害が増えたり、森林の持つ保水力が減退したりするなどの私たちの生活に多大な影響をもたらす可能性が増えるのです。

森林の持つ多面的機能

  • 動植物を守っています。
  • CO2を吸収しています
  • 土砂災害の未然防止に役立ちます
  • 雨水をゆっくり浄化するチカラがあります
  • 快適な生活環境の整備に役立っています
  • 森に行くとストレス解消になります
  • 子供の健やかな成長を助けてくれます
  • 森から生まれる資源は繰り返し利用することが出来ます

話しを戻しますと、中・下流域の都市生活者にできることの一つは「消費」です。流域の農山村で長い年月をかけて大切に育てられた木材等の森のモノを買い支えることです。家を建てる人にとっては流域材を積極的に使って家を建てていただくということでしょう。一人ひとりのアクションが森を支える力になるのです。流域の森の現状を知り、流域材を使った木の家を建てることは、流域経済を活性化させるだけでなく、その後の暮らしにおいても自然とつながる恵みや知識をもたらしてくれると思います。流域=地元ですから、地元について積極的に知ろうという意識が芽生えれば、流域ネットワークによって安心・安全で美味しい食材と出会う可能性も高くなりますね。また、今後自然災害が多発していくことが予想される日本においては、皆で流域地図を共有して自然と向き合い学び合う意識を持つことも必要になります。人も流域という生物多様性の中で生きているという「レジリエンス」の発想です。能動的に地元や地域環境を知るという行動につながると思います。

私は「木曽川流域、木と水の循環システム協議会(代表理事:有馬孝禮 東京大学名誉教授)」をつくり活動していますが、この組織は産・官・学連携の下、流域の資源を活用する専門的ノウハウと誇りを持った農・商・工関連企業で組織された団体です。林業や製材・加工業者等の木材を中心とした自然素材のスペシャリストと建材流通や設計・施工等のスペシャリストによる地産地消と適材適所の提案力、地域密着型工務店の技と心などのエキスパートが参画することにより、流域の森を再生させるだけでなく、良質な流域材を使った丈夫で長持ちする長期優良住宅や認定低炭素住宅、ゼロエネルギー住宅等の高品質住宅を提供しています。また、気軽に流域の農林水産物や木製品等に触れることができる「木曽川流域感謝祭」や、流域の森や木材生産者を訪問見学する「木曽川流域体感ツアー」等のイベントを通じて、流域の様々な生産者情報や「木曽川流域材」を使って木の家建てることができる工務店や建設会社との接点の場を提供しています。住宅や木材を中心に経済的なつながりを通じた流域連携の取り組みを推進している民間主導の団体です。この団体に参画する工務店や建設会社は、森林の持つ多面的機能の維持につながる流域材の活用という公益の実現を目指しているだけでなく、その品質・性能の高さから積極的に木曽川流域材を使用しています。

木曽川流域材マーク

それはトレサビリティ(産地)が明確で、無垢材であっても木材の品質性能が一本一本測定され表示されているからです。木曽川流域産の木材は古くから良質材の産地として日本全国で名が知れ渡っておりましたが、材質に加えて科学的な製造技術によって強度が明確になり寸法安定性が高い木材であることが支持される理由です。

JASの機械等級区分製材品|グレーディングマシーン
JASの機械等級区分製材品|グレーディングマシーン

「流域思考」という暮らし方、流域材で家を建てること、「木曽川流域、木と水の循環システム協議会」の活動に関心を持っていただけたら、是非、当方が主催するイベントにお越し下さい。

※「流域思考」は特定非営利法人鶴見川流域ネットワーキング代表理事で慶応大学名誉教授の岸由二氏が提唱されている考え方で、当協議会も岸氏の考えに賛同しております。